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札幌高等裁判所 昭和60年(行ス)4号 決定 1985年12月18日

北海道北見市寿町三丁目五番地

抗告人

益井愛人

右訴訟代理人弁護士

今瞭美

今重一

北海道北見市青葉町一三番地

相手方

北見税務署長

山崎市司

右指定代理人

菊地至

八津川一男

竹田博輔

細川博毅

秋田谷忠之

漆崎量

溝田幸一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は「原決定を取消す。相手方は別紙文書目録記載の各文書を原裁判所に提出せよ。」との趣旨の裁判を求め、その抗告理由の要旨は次のとおりである。

(一)  相手方は推計課税の合理性を立証する証拠として別紙文書目録記載の文書(一)(申告者の住所、氏名を隠ぺいしたもの、以下本件文書(一)という。)を提出、引用しているが、抗告人としては本件文書(一)の申告者の住所、氏名が分からなければ、相手方の推計課税が合理的かどうかを検討することが全くできず、訴訟追行上非常な不利益を受ける。これは民訴法三一二条一号の趣旨にも反する。また、相手方は本件文書(一)を本訴で引用したことにより、相手方が右文書につき所得税法・法人税法上負っている守秘義務を放棄したものと解すべきであり、民訴法三一二条一号により提出を拒むことはできないものである。

(二)  相手方が自己の主張の真実性立証のために証言を求めている証人江戸修は、抗告人に対する本件所得税更正決定を行なうための相手方の責任者であるから、相手方と同視すべきものである。この証人江戸修は、証言前別紙文書目録記載の文書(二)の所得調査票(以下本件文書(二)という。)を仔細に読み、それに基づいて証言しているから、本件文書(二)を引用したと全く同視すべきである。そして、本件文書(二)は相手方の命令に基づいて、相手方名で行なわれる処分のための基礎資料として作成されたものであるから、民訴法三一二条一号該当書面である。

二  当裁判所の判断

当裁判所も、抗告人の本件文書提出命令の申立は理由がなく、却下すべきものと考えるが、その理由は左記に付加するほかは原決定の説示のとおりであるから、これをここに引用する。

(一)  抗告理由第一点について

一件記録によると、相手方が証拠として提出している本件文書(一)である乙第六号証ないし同第一二号証の各一、二の各青色申告決算書及び乙第一三号証の一、二の各損益計算書は、その申告者の氏名がAないしHで表わされ、その住所、氏名等が明らかにされていないことが認められる。このような場合、抗告人が右乙各号証の証拠価値を検討し反証を提出する手段に制約を受けることは否定できないところである。しかし、このことによって抗告人が全く反証の手段を奪われるわけでもない。すなわち、右乙号証の開示されている記載部分から各申告者のおおよその経営規模を推測することは可能であるし、また、抗告人の税務調査を担当した者を尋問することによって、その開示されている部分の正確性を追及することは勿論、抗告人において所持している帳簿書類の提出等によって、相手方の立証に対抗することは必ずしも困難とは思われない。もともと本件文書(一)の提出者である相手方も申告者の住所、氏名等を隠ぺいすることによって、それなりの証拠価値の減殺を受け不利益を被っているわけであるから、右のような申告者の住所、氏名等が明らかにされていない本件文書(一)の提出を認めても抗告人に著しい不利益を与えるわけでもないし、そのことが民訴法三一二条一号の趣旨に反するものでもない。従って、これを前提とする抗告理由第一点の主張は理由がない(なお、相手方が本件文書(一)についての守秘義務を放棄したものと解することができない理由は原決定の第五、一の3に説示するとおりである。)。

(二)  抗告理由第二点について

一件記録によると、証人江戸修は、相手方が昭和四六年三月二六日付の本件更正処分を行なった当時、北見税務署の所得税課調査主任の地位にあり、所得税の調査を主として行なうことを職務内容としていたものであり、抗告人の昭和四三年度分、同四四年度分の所得税の調査を担当していたこと及び同証人は昭和五二年一一月二九日の証拠調期日において、「調査の日付については証人に呼ばれるということで過去のメモを見てきたので、その日に間違いないと思う。そのメモには調査内容が記録されており、所得調査票と呼んでいて、納税者毎に綴ってある。」旨の証言をしていることが認められる。ところで、証人江戸修が抗告人の主張するように抗告人に対する税務調査の担当責任者であり、相手方が右調査を基礎に本件所得税の更正決定を行なったとしても、証人江戸修は、依然相手方の補助機関に留まり、本件訴訟の当事者ではなく、第三者にすぎないのであるから、たとえ、証人尋問の際、前認定のように本件文書(二)の存在に言及し、右書面に調査内容等が記録されている旨供述したとしても、それは民訴法三一二条一号の当事者の引用には該らないというべきである。従って、抗告人のこの点の主張も理由がない。

三  以上の次第で、本件文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 舟本信光 裁判官 長浜忠次 裁判官 井上繁規)

別紙

文書目録

(一) 相手方提出の乙第六ないし第一三号証の各一、二(申告者AないしGとする者の昭和四三、四四年度分の所得税青色申告決算書各二通宛及び申告者Hとする者の昭和四三年三月一日から同四四年一月三一日まで及び同年二月一日から同四五年一月三一日までの各損益計算書)の原本(相手方が開示していない氏名、住所のすべてが開示されているもの)。

(二) 相手方が作成した抗告人に関する昭和四二年度、同四三年度、同四四年度の各所得調査票及び抗告人の所得申告に関する調査票。

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